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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)696号 判決 1973年10月05日

原告 大室恒司

右訴訟代理人弁護士 鈴木俊光

右訴訟復代理人弁護士 高野敬一

同 納谷廣美

被告 斉藤良三

右訴訟代理人弁護士 大杉和義

主文

一  被告は、原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、かつ、昭和四六年四月一四日以降右明渡済に至るまで一か月金三万円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(双方の申立)

一  原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、別紙目録記載の建物を明け渡し、かつ、昭和四六年四月一四日以降右明渡済に至るまで一か月金三万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める旨申し立て、

二  被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(双方の主張)

第一  原告訴訟代理人は、請求の原因、抗弁に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  別紙目録記載の建物(以下、本件建物という。)は、もと被告の所有であったが、次に述べるとおり、原告がその所有権を取得した。

1 原告は、被告に対し昭和四五年八月一〇日から同年九月二〇日までの間六回にわたり合計金六二三万円を貸与した。

2 原告は、被告の訴外第一相互銀行からの金銭借入につき金二〇〇万円を限度として被告の債務を保証した。

3 そこで、原告と被告とは、昭和四五年九月二〇日合意して「被告は、右1の債務および右2によって将来生ずることあるべき金二〇〇万円の求償債務を担保するため、本件建物の所有権を原告に移転する。被告が、昭和四六年三月末日までに、前記金六二三万円およびこれに対する昭和四五年九月二〇日から右完済に至るまで年一割五分の割合による利息を支払い、かつ、前記保証債務を消滅させまたは求償権を満足させたときは、原告は被告に対し本件建物の所有権を返還する。右期日前であっても、被告または被告が代表取締役をしている訴外永万電設株式会社(以下、永万電設という。)が、不渡処分を受け、または事業を停止したときは、被告は、本件建物の返還を受ける権利を失う。」ことを定めた。

4 永万電設は、昭和四五年一一月一二日不渡手形を出して倒産した。

5 そこで、原告は、確定的に本件建物の所有権を取得した。

二  被告は、何らの権原なく本件建物を占有している。

三  よって、原告は、被告に対し、本件建物の所有権に基づいて、右建物の明渡および訴状送達の日の翌日である昭和四六年四月一四日以降右明渡済に至るまで、賃料相当額一か月金三万二〇〇〇円の割合による損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。

四  被告の仮定抗弁の1は否認する。同2は争う。同3は否認する。同4は、民事訴訟法一三九条一項により却下されるべきである。なお、本件建物の価額は、せいぜい金一〇〇〇万円である。

第二  被告訴訟代理人は、答弁および抗弁として、次のとおり述べた。

一  原告主張の一の冒頭の事実のうち、本件建物が被告の所有であることは認めるが、その余は争う。同1は認める。同2および3は否認する。同4は認める。同5は争う。

二  同二の被告の占有の事実は認める。

三  同三は争う。

四  仮に、昭和四五年九月二〇日原被告間に原告主張の譲渡担保契約が締結されたとしても、

1 右契約は、他の債権者からの執行を免れるためなした通謀虚偽表示である。

2 永万電設が不渡処分を受けたときは、被告は、本件建物の返還を受ける権利を失う旨の約定は、信義則ならびに公序良俗に反する。

3 被告は、昭和四五年九月二二日原告に対し金四四万六〇〇〇円を支払い、また、被告は、昭和四五年一一月中旬原告に対し、代物弁済として、トヨタマークⅡ一台(金四〇万円相当)、電子計算機一台(金三五万円相当)、電話加入権三本(金一八万円相当)を譲渡した。

4 同時履行の抗弁権の主張

(一) 原告は、昭和四六年六月二四日、訴外王子信用金庫が本件建物につき有していた抵当債権を代位弁済したが、その金額は金四五四万六四五八円である。

(二) 第一相互銀行が本件建物につき有する抵当債権は、金五七〇万四一三二円である。

(三) 原告の被告に対する前記金六二三万円の債権は、右3の弁済および代物弁済により、金四八五万四〇〇〇円となっている。

(四) 被告が負担する債務額は、右(一)(二)(三)の合計金一五一〇万四五九〇円であるが、本件建物の時価は金二〇〇〇万円を越える。

(五) よって、本件建物の明渡は、右差額の清算金の支払と引換えになされるべきである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  本件建物がもと被告の所有であったこと、原告が被告に対し昭和四五年八月一〇日から同年九月二〇日までの間六回にわたり合計金六二三万円を貸与したことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、原告は、昭和四五年三月頃被告が第一相互銀行から金二〇〇万円を借り入れるに際し、その債務を保証したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

≪証拠省略≫を総合すれば、被告は、その経営する永万電設の事業資金にあてるため、原告に金融を請い、前述のとおり金員を借り受けたが、無担保であったため、昭和四五年九月二〇日原告の要請により本件建物を譲渡担保に供し、同年一〇月三〇日に同年九月二〇日付売買を原因として所有権移転登記を経由したこと、しかしそのときは契約書を作成するまでに至らなかったので、原被告は、原告の委任した鈴木俊光弁護士の自宅において、同年一一月四日譲渡担保契約書を作成し、その作成日付は、当初譲渡担保契約のなされた同年九月二〇日としたこと、右契約書に記載された条項は、当初の契約の趣旨を明確化したものであって、原告主張の一の3の約定を包含していること、以上の諸事実が認められる。≪証拠判断省略≫

永万電設が昭和四五年一一月一二日不渡手形を出して倒産したこと、被告が本件建物を占有していることは、当事者間に争いがない。

二  被告の抗弁について考える。同1の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。同2については、その主張の約定がただちに信義則ならびに公序良俗に反するとはいえず、また、そのように解すべき事情も存在しないから、採用することができない。同3の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。≪証拠判断省略≫

同4は、民事訴訟法一三九条一項により却下されるべきであるとの原告の申立について考える。原告は、訴状において、本件建物の取得原因は譲渡担保契約であると主張し、昭和四六年五月一七日の第三回口頭弁論期日に≪証拠省略≫を提出し、その後右主張は変更されることなく一貫している。したがって、被告としては、右契約の成立を否認するにしても、仮定抗弁として、本件建物の明渡が被告主張の清算金の支払と引換えになされるべきであると主張する余地のあることは、本件訴訟の当初から知りえた筈である。しかるに、被告が、明確に同時履行の抗弁権の主張を提出したのは、すでに他の証拠調も終え、弁論終結の段階になった昭和四八年八月二一日の第二一回口頭弁論期日においてである。原告は、被告主張の本件建物の時価を争い、被告は立証として右時価の鑑定を申請しており、右抗弁について判断するには、なお証拠調を必要とすることは明らかである。右のような諸事情その他本件の訴訟の経過に照らすと、被告の右抗弁は、重大な過失により時機におくれて提出されたもので訴訟の完結を遅延させるものであるから、却下すべきものである。

被告の抗弁は、いずれも採用することができない。

三  右のとおりであるから、原告は、昭和四五年一一月一二日本件建物の所有権を確定的に取得したものというべきであり、被告は、原告に対し、右建物を明け渡す義務がある。≪証拠省略≫によれば、昭和四五年における本件建物の相当賃料額は一か月金三万円であったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。他に、原告主張の賃料額を認めるべき証拠もない。原告の損害金の請求のうち、訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年四月一四日以降右明渡済に至るまで、一か月金三万円の割合による金員の支払を求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がない。

四  よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条を適用し(仮執行宣言の申立は、相当でないから、却下する。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉田洋一)

<以下省略>

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